耐えられない窪みが、アトピー患者の最大の悩み

アトピー性皮膚炎の患者さんの悩みは、何と言ってもかゆみだろう。患者さんのなかには、「かゆみ」という言葉を見ただけでかゆくなってくる方がいるに違いない。
かゆみの辛さは、自覚症状というところにある。本人にとってどれほどの大変な苦痛であっても、外からは分かりづらい。耐え切れなくなって、つい手がその部分を掻きむしってしまう。「掻いたらだめなんだ」と分かっていても、気がついたら捧さに血が彦むほど掻きむしっている。
「掻いたらダメだって言っているのに、なぜ掻くの」「掻かなければいいのに。それぐらい我慢できないの」
子供の最大の理解者であるべき母親が、子供を責める。アトピー性皮膚炎のかゆみがどれくらいのものかを知らない家族、夫、妻が、こんな言葉を投げる。かゆみを知らない人からそんなことを言われるのも辛い。それにも増して、掻きむしるたびに血膿が皮層から惨み出て、赤黒く、ジュクジュクになった皮層を見れば絶望的になる。
実はこうした精神的な葛藤が、多くのアトピー性皮膚炎の患者さんを余計に悪化させている。

 


「掻いてはいけない」という自制心がよりかゆみを増し、「かゆい」「掻いてはいけない」「かゆい」「掻いてはいけない」といった悪循環が生じてくる。
かゆみが治まれば、そうした悪循環はまず断ち切ることができる。かゆみがなくなれば掻き壊すこともなくなり、「掻いてはいけない」という精神的なプレッシャーも受けなくてすむ。
先ほどアトピー性皮膚炎を火事にたとえたが、かゆみは燃え盛る火のようなものである。火が燃え盛っているときは、とにかく火の勢いを弱める必要がある。火を消して類焼を食い止め、被害を最小限にしなくてはならない。
だからとにかく火の勢いを止めること、つまりかゆみをなくすことが先決である。アトピー性皮層炎の場合、かゆみがなくなれば、ほぼ完治したと同じくらいに患者さんの生活は楽になる。精神的にも前向きになれ、積極的にもなれる。実は、精神的に前向きな状態、積極的な状態は、自然治癒力を向上させることが学問的に分かっている。アトピー性皮膚炎のかゆみを抑えることは、辛いかゆみに悩み続ける時間がなくなるだけでなく、根本的な解決に一役買ってくれることになる。
もちろん、それだけで全てが解決されるわけではない。これでアトピー性皮膚炎が根本的に解決されるのなら、ステロイド剤でかゆみが消えればアトピー性皮膚炎の根本解決に向かうことになる。しかし、ステロイド剤でかゆみが消えても、アトピーは完治しない。このことは、かゆみを消すことが自然治癒力のアップに効果はあるが、完治のためには、違った面からの対策が必要であることを証明している。