診断基準を確立すべく

アトピー性皮膚炎の病因にIgEが直接関与しているのではないかと考えられています。
 

しかし一方では、ぜんそくや鼻炎といった気道アトピーを合併しないアトピー性皮層炎の患者のIgEは正常値のことが多く、逆に寄生虫症などではIgEが高くなるのに皮膚炎ができないこと、生まれつき免疫グロブリンを作る機能が低下している先天性無ガンマグロブリン血症の人にもアトピー性皮膚炎と同じような皮疹ができることが、アトピー性皮膚炎のアトピー説、IgE説を否定する根拠としてあげられています。ザルッバーガー先生自身も、アトピー説に対する信念は変わらないとはいえ、その後、アトピー性皮膚炎とアトピー反応との直接的関係を言明するのは避け、食物アレルゲンや吸入アレルゲンの除去、あるいはそれらによる減感作療法があまり効果がないことを認めています。少なくとも現在いえることは、アトピー性皮膚炎患者の多くがアトピーを有していますが、アトピー性皮膚炎がアトピー疾患である、という証拠はまだつかめていません。
 ところで、アトピー性皮膚炎の診断は、一般にその特有な臨床像と経過によってなされます。本症の診断基準は、今日までいくつか提唱されておりますが、未だ確立されたものはありません。そこで、専門的になりますが、今までに報告された診断基準のなかでおもなものをあげてみます。
 ハニフィン(国皇言)とライカ(宣言)の診断基準は、一九七九年、アトピー性皮唐炎の国際シンポジウムがノルウェーオスロで開催されたときに、アメリカのハニフィン先生とノルウェーのライカ先生によって提示されたものです。現在ではこれらをもとに、さらに新しい医学的見地からアトピー性皮膚炎の診断基準を確立すべく努力がなされています。

診断基準が異なるのは、皮膚症状と経過、I型アレルギーの昂進、皮膚生理機能異常、合併症などの組み合わせ方の違いによるものです。
 典型的なアトピー性皮膚炎は、どの診断基準でも一致するといえますが、アトピー素因を有する患者と有していない患者との間で、皮疹の形態や経過のうえで全く差がみられません。これが常に議論の対象となってきた重要な点でもあります。

ハウスダストの恐怖

わが国で〃アトピー性皮膚炎″という病名が紹介されたのが1960年代の半ばだったので、だいたい70年経過したいうことになります。
しかしアトピーになる原因の1つにハウスダストがあるということが分かったのは、1980年代になってからのことだったのです。


1960年代といえば、ようやく戦後の混乱も落ち着き、住宅事情もよくなってきた頃です。
立て付けの悪いドアや窓なども、サッシという便利で密封性に富んだ建築材がどんどん用いられるようにもなってきました。
 

密封性が良いということは、室内の換気が悪いということの裏返しです。そして室温は冬でも快適な温度に保つことができます。そうすると何がどうなるか、もうお分かりですね。

1969年に、アトピー患者が過敏に反応する室内のゴミのほとんどは、ダニによるものであるという発表が行われました。ハウスダストの内容は、カビ、ダニ、花粉などという幾種類ものアレルゲンとなるものが存在しています。しかしこれらの中で最も強くアレルギー症状を引き起こすものは実はダニであることが分かったのです。


そして1985年には、アメリカの医学者・ロール博士は、健康な人はダニのフンにはまったく反応しないのに、アトピー患者のリンパ球とダーーのフンを一緒に培養すると、強い反応が現れること、アトピーぜんそくが合併して持っている患者のそれは、さらに強く反応するということを発表しています。
 

アトピーとダニとは密接な関わりを持つことはが医学上でもはっきりと証明されています。

腸内環境の乱れに原因

腸内の空間は、腸内細菌の全体の数もだいたい決まっている。したがって、善玉菌の勢力が拡大されると、その分、悪玉菌の勢力が殺がれることになる。こうなると栄養の分解・吸収能力が高まり、私たちの健康状態は良好に保たれるようになる。逆に、悪玉菌の勢力が強くなって善玉菌が減少すると、栄養の分解・吸収能力が低下するばかりか、毒素(有害物質)が腸内にあふれ、免疫力も低下するようになる。
善玉菌が”善玉“とされる理由は、乳酸菌やビフィズス菌が糖を分解し、乳酸や酪酸といった乳酸発酵をするところにある。

たとえば、便秘では肌荒れや吹き出物が出るが、これは腸内で有害物質(毒素)が作られ、毒素が血液と一緒に体内を巡ることに原因がある。下痢もまた、腸粘膜の病変、腸管の吸収の悪化、腸内で作られた毒素による腸粘膜からの水分分泌の過剰といった腸内環境の乱れ、異常が考えられる。便秘、下痢、宿便などはいずれも腸内環境の乱れに原因があり、その乱れの最大原因こそ、ご存じの善玉菌と悪玉菌のバランスの崩れにある。

ここで、腸の分解・吸収の話を簡単にしよう。
腸が大腸と小腸から成り立っていることはご存じだろう。そして、栄養などの分解・吸収は小腸で行われている。小腸は日本人の平均で約6mだが、管の内壁には繊毛と呼ばれる長さ約1m、太さ0.1~0.3mの小さな突起がびっしりと生えている。この繊毛は3000万本と言われるが、その表面には栄養吸収細胞が並んでいる。そして、栄養吸収細胞の表面には長さ1000分の1m、太さ1万分の1mの微繊毛が産毛のように生えている。

春に多く発病

アトピー性皮膚炎と季節の関係はどうでしょうか。日本では、春三月ごろ発病した
り、症状が悪化することが多いようです。前記の太藤先生と上原先生は、数年間、三
月に京都市内で集団検診を行い、湿疹の発生頻度を調べました。
その結果、表のように、乳児(三’七か月児)の一一九%、幼児(三’四歳)の一五%、
学童(小学校高学年)の八%、大学生(十八’一一十歳)の二%に湿疹が認められました。


これらの湿疹性疾患の大多数は、アトピー性皮膚炎の軽症のものと思われます。
アトピー性皮膚炎は、人種や地理的条件とは無関係に発生しています。ただし、文
明の高い環境において発病しやすい傾向があります。たとえば、台湾の人がホノルル
やサンフランシスコに移住すると、台湾に住み続けている子どもらに比べて、アトピ
ー性皮膚炎の発症頻度が高くなります。また、西インド諸島の人がロンドンに移住す
ると、その子どもにはアトピー性皮膚炎が増えるといわれています。
これには、異論がないわけではありません。文明国では、軽症の子でも医者にかか
る率が高いことが影響しているのではないかというのです。


九○年、中国の湖南省で開催された性病学会に出席した折に、中国の中医(漢方医)
の何人かにアトピー性皮膚炎について尋ねましたところ、英語が堪能な医師でも「小
児の内因性湿疹とか慢性湿疹はありますが、アトピー性皮膚炎というのは知りませ
ん」という答えがかえってきました。上海や北京の大都市を含め、中国では顔が赤く
なる成人型のアトピー性皮膚炎はあまりみられないような印象を持ちました。

語源は「奇妙な病気」

二十世紀初めに、アレルギーの基礎的な発見とともにアレルギーの概念が提唱され、その分野の研究が進展しました。クック先生らは、ぜんそくと枯草熱が遺伝的傾向がある病気であることを明らかにし、プラウスニッッ先生とキュストナー先生はぜんそく患者の血清中に特有の抗体(レァギン)が存在することを証明しました。このような免疫学的知見を背景にして、一九二一一一年、クック先生とコカ先生はアトピーの概念を提唱しました。彼らは過敏症を正常型と異常型に分け、健康な人にも見られるアレルギー性接触皮膚炎(かぶれ)などを正常な過敏症とし、異常な過敏症の一型としてアトピーという言葉を初めて使いました。

アトピーとは「奇妙な病気」を意味するギリシャ語の「アトピア」に由来する名称で、遺伝的素因の強いぜんそくと枯草熱がアトピー疾患であると記しています

一九三一年にコカ先生は、アトピー疾患と診断するためには、その病気を引き起こす抗原物質に対する特有の抗体Ⅱレアギンを患者の血清中に証明し、さらにその抗原物質を与えるとその病気と同じ症状を引き起こさせること、すなわち再現できることが重要だと強調しています。

一九一一三年、ザルッバーガー先生らは、古くからベニエ津疹や内因性湿疹など二十種類以上の病名で呼ばれ、乱立していた同義語を統一し、コカ先生らのアトピーの概念にしたがってアトピー性皮膚炎の名称を提案しました。彼らは、アトピー性皮膚炎がアトピー反応によって生じると推測し、アトピー性皮膚炎の特徴として、家族や本人にコカらのいうアトピー疾患の合併率が高く、乳児期に発症することなどをあげています。

さらに検査上の特徴として、多くの皮膚スクラッチあるいは皮内テストで陽性反応を示し、血清中に多くのレアギンが存在する半面、皮膚パッチテストでの陽性率が低いことをあげています。そして、ぜんそくや枯草熱と同じように、皮内テストなどで陽性反応を呈したすべての食物や吸入物質を徹底して除去することで、アトピー性皮層炎は理論上は治せるのではないかと考えました。巧しかし、その後、アトピー性皮膚炎の原因は彼らが推測したような単純なものでは状ないという見方が大勢を占めるようになりました。

ところが一九六六年に、石坂公成先生らによってレァギン活性をもつのが血液中の免疫グロブリンーgEであることが発見されて以来、アトピー説が再燃してきて、アトピー性皮膚炎におけるIgEの検索が、世界各国で盛んに行われるようになりました。

美しい野菜に隠された危険


変皮肉なことですが、現在、アメリカでは和食がブームになっています。なぜ皮肉なのかというと、戦後の食生活を高タンパク・高脂肪に変えたのは、当時、進駐してきたアメリカでした。
脂肪や砂糖を大量に摂取することを教えてくれたのもアメリカ軍だったのです。そのお陰(?)で、日本人の体力は向上しましたが、摂取カロリー過剰になり、肥満、心臓病、高血圧などの成人病を多発させる元にもなったのはご存じのとおりです。
 
そして、低カロリー、ノンファットの究極の食事として何と高カロリー食生活をわが国に提唱したアメリカで和食が大人気となっているのです。
 
戦後、私たちの食生活は大変革をみました。戦中は別にして、日本食の基本は米の炭水化物でした。そしてタンパク質は大豆によって摂取し、動物性タンパク質としての肉などは、せいぜい週に1,2度で、動物性タンパク質は魚が主です。
 

脂肪も月に1,2度の天ぷらで摂取する程度で、脂肪摂取量は現在から比べるとほんの微々たるものでした。
そして現在と違うのは、海藻類、根菜類の摂取が圧倒的に多かったということです。しかも今と違い、野菜の栽培に農薬や化学肥料を用いていないということです。
 
近代農業は、大量生産することで経済効率をよくし、経営としての農業を確立しようとするも
のです。謹則・戦中の農業は効率が悪く、決して経済的には恵まれていませんでした。いや、恵まれないどころか、天候などに左右されていたって不安定なものでした。
 
しかし、農業が近代化されるにつれて、今までの農業では消費者のニーズに応えることができなくなりました。いわゆる都市近郊農業という新しい形の農業が要求されたのです。この都市近郊農業というのは、〃大量生産、低価格、常時供給″というものです。例えば都市でいつも供給が望まれるレタス栽培について見てみましょう。本来ならレタス栽培は、年に1度の収穫、つまり一期作が常識でした。しかし都市住民はいつもレタスを消費します。そのため、春・夏・秋のいわゆる三期作をしなければニーズに追いついていけないのです。

「植物性脂肪は体にいい」というのは本当か?

脂肪について、動物性脂肪のみが悪玉であるように誰もが書き、言ってきました。それでは植物性脂肪は未砺当に善玉なのでしょうか。
私たちが摂取している脂肪には、飽和脂肪酸,と一価不飽和脂肪酸、そしてリノール酸か唇があります。

飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸は、主として動物性の脂肪で、リノール酸は植物性の脂肪です。
ここから「健康には動物性脂肪が悪玉で、植物性脂肪が善玉である」という俗説が誕生したものと考えられます。
しかし、植物性脂肪もよく調べてみると、すべてが善玉だとは言い切れないのです。名古屋市立大学薬学部教授の奥山治美さんは、植物性、とくにリノール酸摂取の仕方に疑問を投げかけています。
奥山先生によると、リノール酸は必須脂肪酸でありコレステロールを下げる作用があるが、意識して摂取する必要はなく、普通の食事の中で充分に摂取されていると言います。そして驚くべきことには、このリノール酸は確かに一時的にコレステロールを下げますが、長いこと摂取するとコレステロールを下げるとは言い切れないということです。そしてリノール酸の摂取過多は、成人病や慢性病の原因になるのだと言います。
言らに奥田先生は、飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸以外の脂肪を次の2つに分けるべきだと主張されています。その2つとは、
リノール酸Ⅱコーン油、紅花油、マーガリンなど
②αlリノレン酸Ⅱ魚介類、海藻、シソ油、野菜など
で、脂肪は結局この2つということになります。
私たちのリノール酸摂取量は、必要量の約皿倍だと言います。そして子供に至っては、それ以上です。

 

これがガンやアレルギー、心筋梗塞の原因にもなっています。アレルギーの原因ということは、当然、アトピーの原因ともなるのです。そのため、アトピーになっている人は、リノール酸を摂り過ぎてはいけないということです。そしてリノール酸の代わりにαlリノレン酸を積極的に摂取することが必要です。
リノール酸が多い食べ物で、摂取を減らしたいもの、そしてαlリノレン酸が多い食べ物で、どしどし摂取してほしいものです。

このように、植物性脂肪が、すべて健康によいというわけではないことがお分かりのことと思います。

アトピーは、私たちが何の気なしに摂取している食べ物に、その原因になるものがあることを充分に認識してほしいものです。


そしてその中でも、砂糖、脂肪、食塩などがアトピーの原因になるということ、これらをシャットアウトしなければ《アトピーは治らないということを、強く訴えておきます。